間違ってる人があまりにも多いので、正しいリテンション率の追い方を解説します

SaaSを始めとするサブスクリプション型のビジネスでは顧客のリテンションが最も重要なため、リテンションが改善しているかを測るためにリテンション率をモニターします。

しかし、実は、リテンション率は顧客がどの程度の「期間」サービスを継続しているかを考慮していないので、正しくリテンションの実態を捉えられません。

そこで、ビジネスにとって最重要の「リテンション」をどのようにモニターすべきかをまとめた記事があったので、こちらに要訳として紹介します。

  • Retention is King, But Are You Tracking the Right Metric? - リンク

以下、要訳。


どのようなビジネスにおいても、リテンションほど重要な指標はありません。しかし、リテンションに関する指標は誤って定義されやすく、チームを間違った方向に導いてしまうことがあります。

私が目にした最大の間違いは、リテンション・カーブ(訳者注: サービスの利用を始めてからの経過時間ごとのリテンション率を可視化した曲線)の傾きを考慮せずに、1つの集計値である年間リテンション率(例:12ヶ月後のリテンション率)だけを報告することです。

そこで、これからリテンション・カーブが平坦にならない場合、なぜビジネスが拡大しないかを紹介していきます。

どちらの企業のリテンションが良い?

A社は利用開始から12ヶ月で50%の顧客がサービスを継続していますが、B社は40%しか顧客がサービスを継続していません。

そのため、どちらの会社のリテンションが良いか、と聞かれたら、A社の方がリテンションが良いことは言うまでもありません。

しかし、本当にそうなのでしょうか。両社のリテンション・カーブを使って、もう少し掘り下げてみましょう。

明らかにA社の方が多くの顧客がサービスを継続していて、リテンションが良いように見えます。

しかし、この質問に正しく答えるにはリテンションの全体像を見ることが重要です。下記のようにチャートの期間を長くして、より長期的なリテンション・カーブを見てみます。

すると、最終的にはB社の方が、より多くの顧客がサービスを継続していることがわかります。リテンション・カーブの傾きを考慮せずに年間のリテンション率に注目していたのは罠だったのです。

A社のリテンション・カーブは直線的に減衰し続けているため、時間が経っても同じ割合の顧客がサービスをキャンセルし続けていて、顧客のチャーン(キャンセル)率は一定です。

対して、B社のリテンション・カーブは指数関数的に減衰しているため、時間が経つほど顧客のチャーン(キャンセル)率は改善しています。

重要なのはリテンション・カーブの傾き

リテンション・カーブの傾きは、継続してモニターすべき、最も重要なリテンションに関する指標です。リテンション・カーブには様々な形状がありますが、ここでは下記の二点に要点をまとめて、単純化します。

  • 期間: 初期 (1-3か月)と長期 (12 か月以降)
  • 傾き: 急(高い解約率)と平坦(低い解約率)

なお、初期の傾きが完全に平坦であることは稀なため、「初期の傾きが平坦」と言うときには、初期段階で多少のキャンセルはあることを意味します。

上記の「期間」と「傾き」を2x2の次元でプロットすると、4つの主要なカテゴリに分かれます。

最高: 初期と長期の傾きが平坦

右上の象限に属する企業は、顧客に満足してもらえるサービスを提供できているだけでなく、それが適切な市場に受け入れている、つまりは「プロダクト・マーケット・フィット」を強く実現しています。

サービスの利用を開始してから早い段階で顧客を魅了し、顧客は長期にわたってサービスを使い続けています。

これは効率的なビジネスの成長のための非常に強力な基盤となるため、このような企業は積極的にマーケティングに投資するべきです。

例えば、Spotifyはこの象限に属する企業です。2ヶ月目に多少のキャンセルはありますが、その後は11ヶ月間で90%の顧客がサービスを継続して、最初の12ヶ月で70%以上の顧客がサービスを継続しています。

出展: SecondMeasure

良い: 初期の傾きが急で長期の傾きが平坦

右下の象限に属する企業のプロダクト・マーケット・フィットは良好です。

サービスの利用を開始してからすぐのタイミングでは顧客がキャンセルするものの、一定の割合で顧客は長期にわたってサービスを継続します。

曲線が平坦になるときのリテンション率が高いほど、長期的なリテンションが良く、サービスがより健全であることを意味します。

初期のリテンション・カーブの傾きが急であることは理想的ではなく、効率化の余地はありますが、長期的には傾きが平坦になっているので、長期的な成長のための基礎ができています。

この象限に当てはまる場合、モニターすべき最も重要な指標は、リテンション・カーブが平坦になるときのリテンション率です。

仮にリテンション率が30%以下でリテンション・カーブが平坦になる場合、成長に時間がかかります。このようなビジネスでは新規顧客獲得へのプレッシャーが大きくなります。

さらにリテンション率が10-20%の低いレベルで平坦になる場合、成長が困難になる可能性が高まります。もし、あなたの会社がこのようなリテンション・カーブを描いているとしたら、以下の対応が必要です。

  • 解約が早い顧客と、そうでない顧客がいる理由を分析する
  • 製品とマーケティング部門がより密接に連携して、顧客のサービス利用の定着に注力する(初期の傾きが急なほど、マーケティングとサービスの間の断絶が大きい)
  • 早いタイミングでオンボーディングを実施し、サービスの利用を活性化する

目標はSpotifyのように、利用開始からすぐに平坦な曲線を描き、12ヶ月で70%以上の顧客にサービスを使い続けてもらうことですが、現実的かつ挑むべき目標は、最初の12ヶ月でカーブをフラットにして、50%以上で安定させることです。

短期的には良いが長期的には悪い: 初期の傾きが平坦で長期の傾きが急

左上の象限に属する企業は厳しい状況に置かれています。

サービスを利用し始めてからすぐのタイミングでは、サービスは魅力的に感じられているようですが、時間の経過とともにユーザーはサービスをキャンセルし、リテンション・カーブは直線的に減衰しています。

これは何かが機能しているものの、それが最初の短い間だけであることを示しています。残念ながら、こういったリテンション・カーブを描く企業は成長のための基盤がないため、ビジネスを拡大できません。

この象限に属する企業は、初期のリテンションが良好なため、初期段階では成長の兆しが見られるものの、必然的に成長が止まってしまう罠にはまってしまいます。もしあなたの会社がこのようなリテンション・カーブを描くならば、以下の対応が必要です。

  • 顧客調査に投資して、時間の経過とともに顧客が解約していく理由をより的確に理解する
  • ネットワーク効果を使って、顧客がサービスを長く継続するほど、顧客にとってより大きな価値を生み出せないかを検討する
  • 新しい成長エンジンの開発に時間をかける。この象限に当てはまる場合、成長は先細ります。売上が横ばいになってから次の開発を考えても「時すでに遅し」です

しかし、早い段階で何かがうまくいっていること自体は良いニュースです。顧客の痛みや不便に感じていることを理解して、より長期的にサービスを継続してもらえる機能を開発できれば、ユーザーを囲い込めます。

ここで重要なのは忍耐強くなることです。リテンション・カーブは一夜にして変わらないからです。

最悪: 初期と長期の傾きが急

左下の象限にある企業は、プロダクト・マーケット・フィットに欠けています。

サービスが魅力的ではなく、顧客はすぐにキャンセルしてしまうため、成長はほぼ不可能です。

あなたの会社のリテンション・カーブがこのようになっている場合は、すぐにマーケティングをやめて、顧客発見と製品の改善に投資をするべきです。


以上、要訳終わり。

あとがき

記事でも紹介されていたように、リテンションを測るときの最大の間違いは、顧客がどの程度の「期間」サービスを継続したかを考慮しないことです。

特にサブスクリプション型のビジネスでは、より多くの顧客に、より長い期間サービスを継続してもらうことが重要なため、今回の記事のようにリテンション・カーブを使って、経過時間ごとのリテンション率をモニターすることは非常に重要です。

リテンション・カーブの作り方を学びたい

記事内で紹介されていたリテンション・カーブは、実はデータサイエンスの世界では「生存曲線」と呼ばれています。生存曲線の詳細や、作り方に興味がある方は、以下のリンクで詳細を紹介していますので、ご参考ください。

  • SaaS アナリティクス #7 - コホート分析 Part.2 - 生存曲線 - リンク

サブスク・データ分析トレーニング

今年の12月にサブスクリプション型ビジネスに特化したデータ分析のトレーニングを開催いたします。

こちらのトレーニングは、今回の記事でも触れられていたリテンション・カーブの作り方だけでなく、SaaSを含むサブスクリプション型のビジネスの改善に必須である、ビジネス指標(KPI)の定義、コンバージョンやチャーン(解約)の要因分析、さらにそれらの先行指標となるエンゲージメントの計算方法や分析手法を効率的に学んでいただくための2日間のトレーニングとなっております。

サブスクリプション型ビジネスの成長にデータを活かしたい方は、ぜひこの機会にご参加を検討ください!

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