人事部門で働く人たちにとって重要なことの1つは、従業員の満足度やパフォーマンスを上げることです。
そのために指標を作って部門ごと、あるいは、マネージャーごとなどの単位で、作った指標をモニタリングし、悪くなっているようであればその要因を分析し、部門やマネージャーをサポートしていくことになります。
そこで、こちらのノートでは、人事部門がモニターすることの多い指標の1つでもある「退職率」を紹介いたします。
退職率は、組織における従業員の定着状況を示す重要な指標です。この指標は、組織を離れた従業員の割合を測定するもので、特に自己都合による退職に焦点を当てることで、組織の健全性や従業員満足度を評価する上で重要な役割を果たします。
企業の人事部門やマネジメント層にとって、この指標を定期的にモニタリングすることは、組織の持続可能性を確保し、人材育成への投資効果を最大化するために不可欠です。
四半期、半期、年度など、定期的なタイミングでの測定が推奨され、人事部門の担当者だけでなく、経営陣や各事業部門のマネージャーにとっても重要な意思決定の基準となり、採用戦略の立案や職場環境の改善のために利用されます。
従業員が定着せずに、どんどん退職していくような企業の、従業員の満足度やパフォーマンスが低くなることは想像に難しくありません。
そこで、会社都合による退職(例: 解雇や退職勧奨)を除いた「自己都合退職率」をモニターすることは、よくやることの1つです。
このとき、気をつけるべきことが1つあります。
このことを、入社から時間が経つとともに、どれだけの割合で従業員が退職をせずに残っているかを表したチャートを使って紹介します。
一般的に、入社したものの社風や業務が合わなかったといったなどの理由で、従業員は入社から間もない時期に退職しやすい特徴があります。
一方で、社風や業務が合っていないと判断した従業員はすでに退職しているため、退職する理由がない人たちが残っているとも言えるため、退職率は入社からの時間が経つに連れ徐々に低くなっていくような特徴があります。
例えば上記の例では、5年後に退職する確率は、4年間退職しなかった人達が退職する確率でになるわけです。
このように、退職率は入社から、どれくらいの期間が経っているかによって変わってくるような特徴があると言えます。
このことを踏まえて、とある企業の部門別の退職率を見てみます。
上記の企業では、研究開発の方が退職率が高くなっています。
しかし、入社からの経過時間別の従業員の割合を見てみると、研究開発の従業員は比較的最近入社した従業員が多いのに対して、営業の従業員は古くからいる従業員が多かったとします。
この場合、研究開発の方がより退職しやすい入社からの経過時間が短い従業員が多いため、研究開発の退職率が営業に比べて高いのは、ある意味当たり前と言えるわけです。
そうであれば、入社からの経過時間によって左右される退職率のような指標ではなく、先程紹介した「期間」を考慮して退職率を理解する方が適切と言えます。
このような経過時間ごとの退職率を可視化したチャートを「生存曲線」と呼ぶのですが、生存曲線を利用すると、「期間」を考慮したうえで、複数のグループ間の退職率を適切に比べられるようになります。
例えば、研究開発の従業員の生存曲線の傾きは営業の曲線よりも「緩やか」なので、研究開発の方が退職しにくいと言えます。
このように、生存曲線の傾きは緩やかになるほど良い、と言えます。
先程の例では、部署ごとにグループを分けて生存曲線を描いていますが、このグループを「入社時期」で分ければ、時間の経過とともに、退職率が改善しているかをどうかを、より適切に理解することができるわけです。
例えば、上記は極端な例ですが、入社年が最近になるほど、生存曲線が緩やかになっているため、時間の経過とともに退職率が改善していることを理解できるわけです。
なお、生存曲線を分けることに利用した「部署」や「入社時期」などのグループのことを「コホート」と呼ぶことから、グループに分けて生存曲線を比べることを「コホート分析」と呼びます。