2つのタイプの知識 - AIによって置き換わるもの、置き換わらないもの

いいアーティストはコピーする、偉大なアーティストは盗む。

- ピカソ

何か(What)を知っているという知識とやり方(How)を理解しているという意味での知識は大きく違います。

もちろん、何かを知っているというのは大事ですが、それ以上にやり方を自分のものとして理解しているかどうかが、ビジネスや仕事で成功するかどうか、実り多い人生を実現できるかどうかの違いにつながります。

何かを知ってるという知識

学校での教育は「何かを知る」ということが中心です。たいていの場合は、学ぶ対象が何であるかを知る、覚えることに集中し、そこで終わります。たとえそれが自分の人生にどのような意味があるのか、どのように現実世界に適用されるのか、もちろん想像することはあるかもしれませんが、それを現実世界で検証することはありません。そのための時間もなければ、その方法を教わることすらありません。

こうした「何かを知る」といった知識は一般的な知識であり、大抵の場合誰でも時間があれば習得できるものです。たくさんの本、新聞、ブログを読み、たくさんのセミナーに参加し、といった具合です。

こうしたより多くのことを知っている必要のある仕事は社会ではより高いステータスがある。弁護士、医者、コンサルタント、教授、マネージャー、など。

しかしこうした知識によって得られる競争優位というものは、少し前までであれば、グローバル経済によって提供されるより安い労働力によって、または検索エンジンによって置き換えられていきました。そしてこれまでは「高度」なものとされてきた「何かを知る」という知識(例えば、法律、医療、金融、など)でさえ、現在AIによってさらに大きく置き換わりつつあるのです。

つまり、どんなに多くの「何かを知って」いてもそういった知識は獲得した時点ですでにコモディティ(商品)化されているのです。つまり、他の人に比べてより多くのことを知っているという事自体に希少価値はないということで、そこには真の競争優位がないため、いつの時代も過酷な競争にさらされることになります。

やり方を知ってるという知識

「やり方を知る」という知識は何かを読んだり、他人から言葉で教えられたりして身につくものではありません。言葉で教えられるのではなく、やり方を観察して、盗まなくてはいけないものです。

そうした知識は自分でやってみて、つまり実験して、それにともなう成功、失敗という経験から学んでいく、つまり検証する、という科学的思考を通して初めて得られるものです。

  • 意思決定のための科学的思考 - リンク

自分で実際にやってみないとわからないというもので、これは職人や芸術の世界では当たり前のことです。

より多くの、より早く、より正確に、ということ自体は目標ではありません。自分にしか生み出せない価値を、今の時代に必要とされるかたちで作り出すことができたかということが究極的な目標です。

これは常に変化する私達の住む世界では価値感も変化し続けますし、自分の価値感も前提もそれまでの時代に比べて、そして他人に比べて違うものです。そこで現在自分の生きる時代、生きる環境においての問題を理解し、それを解決する「やり方」を知るというのは、答えのない世界で作り出される知識であり、それは答えがある世界を前提としているAIには苦手なタイプの知識なのです。それゆえ、こうしたタイプの知識こそAIによって置き換わることのないものなのです。

現在のようにAIによって様々な知識をもとにした仕事が置き換わり始める時代には、この違いを意識して知識を習得していくことがこれまで以上に求められます。ただ、そのことをどれだけの人たちが意識し、そしてそうした知識の習得のために毎日有効に時間を使えているのでしょうか。

今の時代を生き抜くためには、最先端のテクノロジーやトレンドに詳しくなるために、たくさんの情報を仕入れ、たくさんの本を読み、たくさんのセミナーに参加し、様々な多くのことを知らなくてはいけないと思いがちです。

しかしこういう時代に本当に必要なのは、1つのことを深く知り、1つのことを様々な方法で試行錯誤することで深く理解し、自分の経験として学ぶことで自分の知識として習得することなのです。そのことによって自分にしか提供できない価値を作り出すことができます。これは他の人や他のもの(AIや検索エンジンなど)と競争する必要のないものです。

学校教育や会社の人事教育はその性質上いつも「何かを知る」ことにフォーカスし、「やり方を知る」ことは誰も教えてくれません。それは自分が実際にやってみて、自分の経験を通して学んでいくものだからです。

このことを毎日意識しながら生きていければ、より多くの機会に巡り会え、より充実された人生が送れるのではないかと思います。

コピーするとは、複製することです。複製は永遠に続き、現在のようなデジタル時代においてはとても素早く簡単にできるため、競争は激しくなるばかりです。

二流のアーティストはコピーする。一流のアーティストは盗む。

- ピカソ

盗むとは、盗んだあとには元の場所にはそれもうないということです。つまり元の場所にもともとあった価値は失われ、新しい場所に新しい価値が生まれた、ということです。

知識をコピーするだけではなく、知識を盗めるようになりましょう。

参考文献:

  • Donald Norman on the Two Types of Knowledge - Link
  • Shop Class as Soulcraft: An Inquiry into the Value of Work - Link

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