あり余る原油を輸出したいアメリカを助けるBRICS

今から半世紀前となる1970年代、OPEC諸国が原油価格を引き上げ、さらにイスラエル同盟国である西側諸国に対する禁輸を行った結果、いわゆるオイル・ショックが起き、欧米日は原油の獲得に追われることとなりました。

この経験より、アメリカには「エネルギー供給の深刻な中断による悪影響を軽減する」ための戦略石油備蓄というものがあります。これがバイデン政権になってからかなりの勢いで放出され、備蓄量が大きく減少しています。

そしてこのことは共和党系、独立派の多くの人達に非難されています。

私もこれに関して、バイデン政権はアメリカをわざと崩壊させようとしているのではないか、と疑っていました。

しかし、最近アメリカの原油や天然ガスの輸出に関するデータを見て考えを改めました。というのは、アメリカは今や原油や天然ガスの世界最大の生産国であり、世界最大の輸出国であるという事実に気づくと、備蓄量を減らすことに納得できるからです。

天然ガスに関しては先週話したので、詳細はそちらを見てみて下さい。

  • JP#20 - ヨーロッパにガスを輸出したいアメリカ - Link

今回は原油を見てみたいと思います。

まず、アメリカはシェール革命によって国内の原油の生産量は2010年以降一気に伸びました。

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それにともないアメリカの原油の輸出はどんどんと伸びていくのですが、それと時を合わせて海外からの原油の輸入は大きく減っていきました。

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そしてついに2020年には原油の輸出が輸入を上回り、アメリカは原油の純輸出国になったのです。

輸入が減少、輸出が増加、そして原油生産量はうなぎのぼりに増加。

ここでちょっと立ち止まって考えてみましょう。

もし海外で何かが起きて、アメリカに原油が入ってこないという緊急な状況になったとしましょう。

すると、アメリカは自国の原油生産量を増やしている民間会社のタンクにある原油を国内向けに回せばいいだけです。緊急事態なのですから、問題なくできるでしょう。

もし十分になければ、今度は輸出向けの原油を国内向けに回せばいいだけなのです。

アメリカの石油会社はもちろん民間会社ですが、そうした会社を動かす人達がアメリカ政府や政治家に大きな影響力を持っているのは多くの人たちが知ることですね。

なので、彼らが必要だと思えば、輸出先に回す分を国内に回すのは容易いことでしょう。

もちろん、そんなに事はシンプルじゃないかもしれません。それでもあえてこの前提でアメリカの原油備蓄量とアメリカの原油輸出量の関係を見てみましょう。

すると、ちょうど原油の輸出が輸入を上回る2020年頃から備蓄の方も減っていっているのが見えます。

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もちろん、バイデン政権になってから急激に原油備蓄量は減っているのですが、ちょうど同じ時期に原油輸出量も大きく増えているのです。

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「オイル・ショック」といった言葉を知ってる、私を含めた古い世代の人達はこの点をついつい見落としがちです。つまり、アメリカは世界最大の原油生産国であり、輸出国であるという事実です。

国別原油生産量 - 2023年12月

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ウクライナ戦争とアメリカの原油輸出

ちなみに、2022年以降アメリカの原油輸出はウクライナ戦争時に一気に増えています。

それは東アジアとヨーロッパへの輸出がこの時期急激に増えたことによるものです。

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国別に見てみると東アジアでは日本、中国、韓国向けの輸出がウクライナ戦争後に大きく伸びています。

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ヨーロッパでも、オランダ(Netherlands)、イタリア、スペイン、イギリス、そして北欧諸国など、多くの国に対してのアメリカ原油の輸出がウクライナ戦争以降大きく伸びています。

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そして以下が2024年の第1四半期(1月から3月)のアメリカの原油輸出国別を地図で表したものです。

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ウクライナ戦争以降ヨーロッパ諸国はロシアに対して経済政策をしているので、ロシアから原油を輸入できません。

これはアメリカの石油業界にとっては嬉しい話でしょう。

さて、ウクライナ戦争が起きたからアメリカの石油業界は棚からぼた餅的に嬉しかったのでしょうか。

それともアメリカの石油業界が、ヨーロッパや東アジアにアメリカの原油を輸出したかったから、邪魔なロシアの原油を追放するためにロシアにヨーロッパなどが禁輸措置を取らざる得ない状況を作りたかったのか。

ちょっと陰謀論っぽくなってきましたね。真実はどうか私にはわかりません。ただ、実際そうした陰謀が渦巻くのが、石油、軍需、金融業界と政治の世界であるというのが現実なのです。

非米同盟としてのBRICSができると嬉しいのは誰か?

ところで、先ほどのアメリカの原油輸出国の地図をヨーロッパに拡大してみると、多いのはイギリスとオランダですが、ドイツは今のところ少ないです。

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こちらが2022年時点でのドイツの原油輸入先のシェアですがロシアが一番大きく30%ほど、アメリカは10%未満。

ドイツはヨーロッパで最大の経済圏なので、アメリカ石油業界がここに原油を売りたいと思うのは不思議ではありません。先ほどのウクライナ戦争によるロシアからの輸入禁止措置は、アメリカ石油業界にとっては嬉しい話です。

そして、ロシアから原油を輸入できなくなったなら次に狙うのは中東や北アフリカではないでしょうか。

ここでBRICSが重要となります。

BRICSに世界の資源が独占される、は本当か?

まずBRICSというは非米同盟だとよく言われます。この同盟は欧米日にとって脅威だと言われたりします。というのも、世界の資源の多くが非米側に行ってしまうからです。

しかし、例えば今回見てきた原油の場合、アメリカの生産量は世界トップであり、

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さらにアメリカの原油生産量は年々伸びています。

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これは天然ガスにおいても同じです。

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もちろん世界には様々な天然資源があるわけですが、それぞれの国の経済を動かすという意味において、原油と天然ガスほど重要なものもありません。

なので、世界の原油、ガスがBRICSに独占され、欧米日はそうした資源にアクセスできなくなる、ということはおそらくないでしょう。アメリカには自国で消費する以上の資源があるのです。

アメリカにとっての問題は、そうした原油や天然ガスをどうしたらお金にできるか、どうすれば他の国に買ってもらえるかです。

そこでBRICSという非米同盟ができれば、ヨーロッパや日本、そしてその他のアメリカ側諸国はアメリカから原油や天然ガスを輸入せざるを得なくなります。ロシアや、そのうち中東からも輸入できなくなるかもしれません。

つまりBRICSという非米同盟ができることでアメリカは欧日をはじめとしたアメリカ同盟諸国という市場で、ロシアや中東抜きの独占体制を作れるということです。

BRICSはペトロダラーの脅威か?

いや、それではペトロダラーはどうなるんだ、という人もいるかもしれません。

これは私もこちらのツイートで1年前くらいに主張していたことです。

1971年に当時のニクソン大統領がアメリカのドルと金の交換を停止(ニクソンショック)したことでドルの信頼が失われかけたとき、当時国務大臣であったキッシンジャーが原油大国であるサウジアラビアに飛び、アメリカがサウジの防衛を肩代わりする代わりに、サウジは原油の取引決済にドルを使うという取り決めをしました。

これにより世界経済の血液である原油の取引にドルが使われている限り、どれだけアメリカ政府が勝手にドルを刷ってもその価値は保証されるというものでした。

これがいわゆるペトロダラーの始まりです。

それだけにBRICSという非米同盟ができ、それらの国の原油や天然ガスなどの取引にドルが使われなくなると、ドルの需要が落ち、ペトロダラーと言われていたドルの信頼が落ち、ドルが崩壊すると。

しかし、サウジを含めたBRICSが非米同盟の正確を強くすればするほど、ヨーロッパ、日本、親米アジア諸国はアメリカ、そしてその同盟国であるカナダやオーストラリアなどから石油、ガスを輸入せざるをえなくなるため、アメリカ側諸国でドルが使われなくなることはないでしょう。

もちろん中国などが使わなくなればドルの取引量は減少するかもしれません。

しかし、現在のように世界最大の原油や天然ガスの生産国、輸出国となったアメリカにとっては、ドルを支えるための中東諸国の重要性は以前に比べ格段に落ちているのではないでしょうか。

つまり、BRICSが強くなりアメリカと対立することで、アメリカは失うものよりも、むしろ得ることのほうが大きいのではないかということです。

BRICSとは、これまでBRICS系の国から輸入できてたドイツや日本をはじめとした親米諸国にとって都合が悪い話で   す。というのも原油やガスといった経済の血液をアメリカに頼ることになってしまうわけですから、経済的なコストが上がるのはもちろんですが、それ以上に絶対服従を求められることになります。

BRICSとはアメリカを動かす石油、ガス業界にとっては経済的に都合のいい話であり、アメリカにとっては地政学的に都合のいい話なのでは、ということです。

よく考えてみると、アメリカの原油備蓄に関しても、BRICSに関しても多くの人が勘違いしているのではないかということです。

私はその一人だったのですが、上記のようなデータを見て考えを変えました。

もちろん、ほんとうのことはわかりません。

ただ、これからは「アメリカにある豊富な原油と天然ガスの輸出戦略」という視点から、世界で起きている状況を予測、理解に努めたいと思います。

ビデオ解説

今回のアメリカの原油輸出戦略とBRICSの関係についての解説、また元データの取り方、チャートの作り方について こちらのビデオで詳しく解説していますのでぜひご覧ください!

データ

今回使ったデータはこちらに公開しております。 ご自由にお使い下さい!

  • アメリカ産原油の国別輸出データ - Link

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