データサイエンスやデータ分析の話をすると、ついついアナリティクス、分析手法の話に目が行ってしまいます。しかし実際には、分析を始める前に、データを使って解決したいビジネスの問題を定義しておくことが重要です。そのためには問題を数値化することが重要でここでKPIを定義しておく必要があります。
また、分析の結果何かの施策を打つことになるのであれば、その成果をモニターしておく必要があり、ここでも、既存のKPIと合わせて、多くの場合、新らしく定義されることになるKPIをモニターする必要があります。
もちろん、ビジネスによってモニタースべきKPIの中身は違ってくるものですが、SaaSビジネスの営業に関しては、どこも同じようなものを使っています。
今回は、私達もExploratoryのウェブサイト上で、訪問者やユーザーの方たちとのコミュニケーションで使っているIntercomというスタートアップでセールスのVPをやっているLB Harveyが、実際彼らが使っている18のセールスKPIを共有してくれているので、こちらで紹介します。
Data-driven sales: 18 sales KPIs and metrics to grow your revenue faster - Link
セールスKPI(キー・パフォーマンス・インジケーター)とは営業チームのパフォーマンスを数値化した指標のことです。KPIは営業、マネージャー、リーダーがゴールに対しての進捗をモニターし、高いレベルでのトレンドを把握し、個人とチームのパフォーマンスを管理するのに役立ちます。
営業チームのリーダーはその裏にあるデータを理解した上で、こうした指標を具体的なアクションにして最高のパフォーマンスを上げるために使っていく必要があります。
セールスのKPIをモニターするのは私達のチームに必要なアクションを促すためであって、ただセールス・ダッシュボードに表示するためだけではありません。
例えば、営業可能なリードをたくさん出してはいるが、ステージ1の機会(SDR - Sales Development Representatives - が見込みありそうだと印をつけてAE - Account Executivesに渡した見込み顧客の数)の数は増えてないことに気づいたとします。それは2つのことのどちらかを意味していると考えることができます。1つは、品質があまり良くないリードが増えているということで、もう1つは、SDRのチームの人員が足りないために対応できていないということです。これはどちらにしろ、前に進むために修正することができる問題です。
それでは、以下が、Intercomで実際にモニターしている重要な18のセールスKPIです。
指標は測り始めたらキリがないほどたくさんありますが、私達にとってはこれらが、私達のビジネスの成長を効率的に促すために重要なものです。
ここにあげたKPIの多くは、個人とチームの2つのレベルで測定するべきです。あなたの営業の人間をトップレベルのパフォーマンスがでるように管理し、さらにチームとしてのゴールを達成するために重要です。
セールスのファンネルに入ってくるリードの量がどれくらいあるのかの指標です。これはどれくらいの機会がSDRの人たちが対応してAEの人たちにわたすことができるかの先行指標となります。
インバウンドのリード、つまりマーケティング活動によって作られた新しいリードに関しては次のものをモニターしています。
2つのチームが賛成したクオリティ基準をもとに、マーケティングからセールスに持ち込まれたすべてのチャネルでのインバウンドのリードの総数。
上のチャートを見ての通り、私達はインバウンドのリードをビジネスのタイプによって、スモール、ミディアム、そしてエンタープライズといったセグメントに分けています。このKPIはMarketing Qualified Leads (MQLs)とも呼ばれているものです。
インバウンドのリードにたいしてSDRが連絡をとるまでの時間を分単位で見ています。時間がビジネスを殺してしまうのは言うまでもありません。なので、リアルタイムでチャットを使ってなるべくたくさんのリードをコンバートすることに懸命です。
アウトバウンドのSDRによって持ち込まれたリードに関しては、次のものをモニターしています。
アウトバウンドのSDRが連絡したアカウントの数です。
SDRの連絡に対して反応したアカウントの数。アカウントが営業をかけるに値する状況に変わる前に、SDRとAEのチームがどのレベルの連絡が必要かに関して、合意をとっておくことが重要です。
インバウンドSDRの場合は、これは与えられたリードのうち、営業見込み客にすることができたか割合です。
アウトバウンドSDRの場合は、彼らが積極的にアウトリーチ活動をかけたアカウントのうち、営業見込み客となった割合です。
ステージ1の営業見込み客のうちAEによって価値があるとラベル付けされた率です。ほとんどのステージ1の営業見込み客はステージ2に動くべきですがそうなっていない場合は、SDRとAEの間でうまくコミュニケーションが取れてないかもしれません。このKPIはSales Qualified Leads (SQLs)とも呼ばれているものです。
これらの数字を右肩上がりに持っていくことがゴールですが、いくつかは後追い指標です。つまり、どれだけのセールス・パイプラインを作ったか、クローズしたかということの指標です。ただ、これらは基本的には後追い指標なので、ここで何らかの問題を認識し、何かアクションを取ろうと思っても手遅れであることが多いです。
上記のチャートを見てもわかるように、これはビジネスのセグメントごとにトラックしています。これは、Average Sales Price (ASP) or Average Transaction Size (ATS)とも呼ばれているKPIです。
ステージ2の見込み客のうちAEによって新規顧客としてコンバートされた率。
私達がどれだけ効率よく既存顧客にもっとお金を費やしてもらっているかを測っています。リテンションとエクスパンションは収入の持続的な成長のための私達の戦略の要です。なぜなら、既存の顧客を保つためのコストに対して、新規顧客を獲得するコストは5倍から25倍ほどだからです。
そこで、私達はチャーン(キャンセル)、コントラクション(収縮、今までよりも少ないお金を費やしている)、そしてエクスパンションといったトレンドをモニターすることで、私達はたえず顧客に価値を提供できているのかを確認しているのです。
当たり前ですが、ここでのゴールはエクスパンションがいつもチャーンやコントラクションよりも大きくなっているということです。
以下が私達が見ている既存顧客に関するKPIです。
既存顧客からの追加売上。前期よりもさらに多くのお金を払ってくれているということ。
既存顧客からの下がった売上の額。前期に比べて支払額が減ったということ。
キャンセルされた顧客からの失われた売上の額。
チャーンした顧客の数。チャーンの額と合わせて見ることによって顧客の状況に関するパターンを理解することができます。
コントラクションやチャーンをエクスパンションから差し引いた、純エクスパンションの額。
新規顧客によって持ち込まれた追加の売上の合計から、コントラクションやチャーンの額を差し引き、さらにエクスパンションの額を足したもの。
一人一人がクローズした数。これは一人の営業にかかるコストに対して、リターンがどれだけあるのかを測るための指標です。
KPIを定義するのは重要ですが、それだけではあなたのビジネスが次のステージに向かって成長することはありません。これらをどう使い、アクションに結びつけることができるのかこそが重要なのです。
ここで、私達がどのようにセールスKPIを実際使っているのかの例を紹介します。
セールスのKPIを新しいイニシアチブの文脈で話すことでエグゼクティブを説得する必要があります。
最近、上流のマーケットに移動し、グルーバルの売上を拡大するためにアウトバウンド営業というものを試してみる機会がありました。理論的には、単純です。何人かのアウトバウンドの人たちを雇って、より大きな会社に売り始めればいいのです。しかし、数字の計算がこれをしっかりサポートする必要があります。そこで、ファイナンスのチームといっしょにROIの指標と適切な期間を定義することとなりました。
アウトバウンドのSDRひとりあたりのROIが4倍になるというのがゴールで、それは12ヶ月以内に達成できるというものでした。
アウトバウンドのイニシアチブを定義するためのインプットはあなたのセールスのKPIです。営業一人ごとが作ることのできる機会の数、勝率、新規収入、アカウト毎の平均の売上です。こうした指標の数を足し上げることで、どうやって、そしてなぜ、アウトバウンドの営業がビジネスにとって必要なのかを説明することができました。こうしたエグゼクティブの人たちを説得するためにはしっかりとしたデータに基づく議論を用意する必要があります。
以上、要訳終わり。
ビジネスでデータを使っていくにはまず最初にKPIをしっかりと定義することが重要です。しかし、英語でVanity(虚栄)Metricsといわれるのですが、見せかけ、もしくはやった気になっているような指標をついついたくさん定義してしまい、さらにひどいことに、そうした見せかけの指標が出してくる数字を毎日見ては一喜一憂してしまうということがあります。
KPIを定義するのは、もちろんビジネスの状態をモニターしておくためではありますが、ほんとうのゴールは、問題を早期に発見することで対処する、つまり必要なアクションをとって軌道修正していくためでもあります。
ここにでてきた18のセールスKPIは、特にSaaSのビジネスの営業組織であればどこでも把握しておくべきものですが、これらはある意味、ビジネスの成長を測るための基本であり、LBも本文の中で言っていますが、多くは後追い型の指標(Lagging Indicator)です。
この次のステップとして、ここに出てきたような指標の数字を改善するためにはどういったことができるのかをデータを使って分析し、そこで得られたインサイトをもとに施策に結びつける意思決定を行い、その施策の成果を測るための自分たちにユニークな指標を定義することができるようになれば、さらに成長していくことができるのではないでしょうか。そういった最終的なゴールを達成するためのレバーとなる具体的な指標を先行指標(Leading Indicator)といいます。
なんと言ってもビジネスでデータ分析をするのはアクションを取るためですから、先行指標こそが重要になってくるわけですね。
次回ブートキャンプは来年1月です!まだ若干空きがありますので、データサイエンスの手法やデータ分析をゼロから体系的にいっしょに学びたいという方は、この機会にぜひご検討下さい!