私達ExploratoryもSaaS(Software-as-a-Service)のビジネスモデル、つまり毎月(または毎年)のサブスクリプションによる課金によってお金を稼ぐというモデルです。これは、従来型のライセンスを売り切る形のビジネスモデルとは大きく違うので、ビジネスの状態を知るための指標も大きく変わってきます。
そこでMRR(Monthly Recurring Revenue)、Churn Rate(離脱率)、CLTV(Customer Life Time Value / 顧客生涯価値)、コンバーション率、CAC(Customer Acquisition Cost)などといった指標を定期的にモニターしていくことになるのですが、ここで問題があります。
こうした指標は後追い指標であり、例えば月末や期末にその数値を知った後では反省会はできますが、もうこの数字を変えることはできません。
ビジネスに責任を持つ者としてほんとうにしたいのは、こうした指標の数値を自分たちの設定したゴールに達成するために役立つ施策をどんどんと早めに打っていくことです。つまり、後追い指標ではなく、先行指標指標こそが普段から頻繁にモニターしておきたいものなのです。
そこで、そうした時によく使われるものとして、エンゲージメントというものがあります。ようはユーザーがどれだけ自分たちのプロダクトやサービスを使ってくれているのかを測る指標です。
これによって、どのユーザーがコンバートしそうか、アップセルの機会がありそうか、またはどのユーザーがチャーン(離脱、キャンセル)しそうかということを予測しやすくなります。
今回はこのエンゲージメントに関して、詳しくまとめられている記事が最近出ていたので、ここで紹介したいと思います。
以下、要訳。
Product engagement: the most important metric you aren’t tracking for your SaaS business - Link
どんなSaaSのビジネスでもプロダクトに対するユーザーのエンゲージメントは死活的に重要です。なぜならあなたのプロダクトをユーザーが時間が経ってもずっと使い続けることでSaaSのビジネスモデルが成り立つからです。
つまり、SaaSのビジネスモデルはプロダクト・エンゲージメントにかかっているわけで、このエンゲージメントを理解することなしに、自分たちが現在おかれているビジネスの状態を掴むことはほぼ不可能でしょう。
CEOは、「私達のアカウントの調子は今どうなのか?」、「今月のエンゲージメントはどうなっているのか?」と言った質問に答えたいものです。
プロダクトのVPであれば、直近のプロダクト・リリースがどれだけエンゲージメントを向上するのに役立っているのか知りたいはずです。
カスタマー・サクセスのマネージャーであれば、自分たちの時間をどう費やすかについて決めるために、どのアカウントが伸びているのか、どのアカウントが停滞しているのか、といったことを知りたいものです。しかし現実には、「最近どうですか?」といったメールをクライアントに送り続けていたりするものです。
AE(Account Executive/アカウント・エグゼクティブ)であれば、トライアル(お試し)期間中のどのアカウントがこちらから電話するのにいいタイミングか、もしくは電話すべきでないかといったことを知りたいものです。
こうした質問に答えるために、SaaSビジネスは自分たちにあったエンゲージメント・スコアを作り、モニターしていく必要があるのです。
ここでは、その作り方を簡単に紹介します。
この最初のステップは戦略的なものです。このステップではエンゲージメントがあなたのプロダクトにとって何を意味するのかを考える必要があります。あなたのプロダクトは市場でユニークなものなので、ほかから借りてくることはできません。
多くのSaaSプロダクトにとって、よくあるエンゲージメントの定義はログインの数です。驚くほどにこれが多くのSaaSビジネスで使われています。確かにこれはアクティブユーザーを表すことには違いないのですが、エンゲージメントとは言えません。例えばユーザーはただ単にキャンセルボタンを探すためにログインしているだけかもしれないからです。
そもそもエンゲージしているユーザーとは、彼らにとって価値を生み出す機能を使っているユーザーなのです。
そこで、あなたのプロダクトにとってエンゲージしているとはどういうことなのかということを正確に定義しておく必要があるのです。
例えば、B2Bの生産性向上のためのツールであれば、ある一定数のプロジェクトが作られた、タスクが完了した、チームメンバーが追加された、コメントが残された、ファイルがアップロードされた、プロジェクトが完了した、などといったものがエンゲージメントとして定義されるかもしれません。
ソーシャルネットワークのアプリであれば、つながりができた、コンテンツが投稿された、投稿されたものに対して「いいね」ボタンが押された、コメントが作られた、などと言ったものになるでしょう。
ここでのポイントはあなたのプロダクトは他のどのプロダクトとも違うということです。このことを忘れるべきではありません。あなたのプロダクトにとって重要なアクティビティをもとにエンゲージメントを決めるべきなのです。
これは一つのアクティビティというわけではなく、複数のアクティビティを持つリストであることが多いです。そこで、例えば先ほどのソーシャルアプリの場合であれば、以下のようなアクティビティのリストが出来上がると思います。
プロダクトの進化とともにこうした定義はどんどんとアップデートされ調整されていくものですが、まずは一度リストができれば、次のステップ2に移ることができます。
これを読んでいるようなSaaSのチームはプロダクトにとって重要なイベントはすでにトラック(追跡)しているでしょう。もししていないなら、何を待っているのですか?
次のステップとして、あなたのプロダクト全体に与えるインパクトや重要さを考慮した上で、それぞれのエンゲージメント・アクティビティに重みを付けていきます。
全てのアクティビティが等しく重要というわけではありません。
例えば、新しいユーザーを招待するというイベントは、単純にログインするというイベントに比べてもっとエンゲージしているということができるでしょう。ソーシャルメディアのサイトに長いポストを書くというイベントは、単純にだれかの投稿に「いいね」したというイベント以上にエンゲージしていると言えるでしょう。
スコアのレンジは、1から10でも、1から100でも何でも構いません。重要なのはそれぞれのイベントにポイントを付けてそれが全体としてのエンゲージメントを考えた時にバランスがとれているかどうかです。
一般的には、よく使われるようなイベントは低いポイントをつけ、あまりよく使われることは無いパワーユーザーに多く使われるようなイベントには高いポイントをつけたりします。
その上で、それぞれのユーザーのこうした個々のイベントに対するスコアをユーザーごとに足し上げていくことで、それぞれのユーザーのエンゲージメント・スコアが算出されます。
例えば、「あるユーザーのエンゲージメント・スコアは458だ」などというように、このスコアをそのままマーケティングチームに伝えるのは何の役にも立ちません。この数字がいいのか悪いのかを判断することができないからです。
しかしこれを、例えば1から100のレンジで91だ、と伝えることができれば、だれにとっても理解しやすくなります。
そこで、先ほどのエンゲージメント・スコアに対して正規化の計算を行うことになります。私達の会社ではWinsorizing(ウィンソライジング)という計算方法を使っています。
訳者注:こちらにExploratoryまたはRでWinsorizingという手法で正規化する方法をまとめてあります。
このスコアをもとに起こせるアクションとして以下にいくつか挙げることができます。
ユーザーレベルでエンゲージメント・スコアがつけれたら、次にそれをアカウントレベルで集計することができます。これはSaaSビジネスであれば必須のことでしょう。これにより、次のことが可能になります。
エンゲージメント・スコアを集計してプロダクト全体のスコアとすることもできます。
これはすべてのエンゲージメント・スコアを足し上げ、ユーザーの数で割ることで算出できます。この平均スコアを時間の経過とともにモニターすることで、プロダクトにおける改善がエンゲージメントの上昇に役立っているのかどうかがわかります。
エンゲージメントの指標はユーザーのセグメントを比べる時にものすごく役に立ちます。例えば、古くからのユーザーと最近のユーザーを比べたり、無料プランのユーザーと有料プランのユーザーを比べたり、アクセスレベルの違うユーザー間を比べたりと言った感じです。
最後に、よいエンゲージメントのスコアはプロダクトの指標として価値があるだけではありません。これはどんなソフトウェアビジネスにとっても欠かすことができないビジネスの指標なのです。
売上、リテンション、成長、LTVなどといった他のビジネス指標と比べながら見ていくことで、最終的にはビジネスの成長を予測していくことができるのです。
以上、要訳終わり。
本文でも言われているように、実はエンゲージメントの指標を作るのは技術的、統計的には難しくありません。
一番難しいのは、自分たちのプロダクトにとってエンゲージメントと言えるアクティビティは何なのかと定義することです。
しかし、ここであまり自分たちでだらだらと議論を重ねるよりも、まずはこのいくつかのイベントが自分たちのプロダクトにとってのエンゲージメントなのではないかという仮説をもとに計測し始め、それを最終的な目的であるコンバーション、チャーンなどといった後追い指標と比べることでその仮説が本当にあっているのかどうかをどんどんチューンアップしていけばいいと思います。
もちろん、スタートアップの場合は特に最初の段階、つまりPMF(Product-Market-Fit / プロダクトとマーケットがフィットしている)の前の段階では自分たちが戦略的に進みたい方向と、現在のエンゲージメントがマッチしていない場合がよくあります。
しかし、それでもエンゲージメント・アクティビティのリストをアップデートし続け、スコアをモニターし続けることでプロダクトの進化が自分たちの思った方向に本当に進んでいるのかどうかをチェックするのに役立ちますし、エンゲージメントをもとにタイミングよくカスタマーをサポートしていくこともできますし、何よりも多くのことを学ぶことができるカスタマーを見つけ出すことができます。
みなさんも、ぜひ自分たちのエンゲージメントを定義し、モニターし、ビジネスの改善に役立たせ始めてみてください!
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